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京都家庭裁判所 昭和54年(少)5296号 決定

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

本件記録中の少年に関する司法警察員作成に係る

(イ)  昭和五四年一一月一七日付少年事件送致書記載の犯罪事実

(ロ)  同月二七日付追送致書記載の追送致犯罪事実

と同一、ここにこれらを引用する。

(適用すべき法令)

上記(イ)につき刑法二〇五条、六〇条

同(ロ)のうち窃盗につき 刑法二三五条、六〇条

占有離脱物横領につき 刑法二五四条

(初等少年院に送致する理由)

少年は、昭和五二年四月に京都市立○○○中学校に入学し、本年四月に同校三年に進級しているものであるが、本件各非行までには警察における補導歴を有せず、また、同人につき当裁判所に事件が係属するのは本件が初めてである。

そして、家庭における生活態度及び学校における学習態度のいずれについても、少年は、これまで特に問題視されることなく過ごしてきたものである。

調査の結果によるも、少年には、上記中学校の一年及び二年時までは、校内において、多少弱い者いじめをする傾向が見られて級友からの信頼が薄いことや、若干教師に反抗的な態度が見受けられることなどを除けば、特に問題行動は認められない。

しかしながら、本年四月に三年に進級した後、本件共犯少年らとの交遊が始まり、その頃交友関係につき父親から注意を受けながらも改めることなく交遊を深め、本件傷害致死の事件を惹起するまでに、本件窃盗、占有離脱物横領、トランプ遊戯による賭博等の問題行動を累行していたものである。

鑑別の結果によれば、少年は、知能は普通級程度の水準にあるが、広い視野から臨機応変に物事を把握する能力に乏しく、外観にとらわれがちで全体を見通した判断に欠ける傾向が認められる。更に、活動的であり、対人関係について過感で自信に乏しく、ひがみ及び劣等感を内在しながら負けず嫌い、片意地で軽佻な傾向が認められ、被暗示的傾向が強く、自我防衛的で、冷淡で情緒的な発達が劣り、社会的規範意識が希薄で、自律性にも乏しいものと認められる。

少年の家庭は、少年が小学校一年の頃、母親が病死したため、以後少年は片親のまま養育されてきているのであるが、父親が厳格ではあるが融通性に欠ける養育態度に終始したためか、情緒的な交流の不活発な家庭であつたと解され、その保護能力にはあまり多くを期待できない。

本件傷害致死事件を惹起するに際しては、共犯者のA少年と謀り、些細な口実をつけては、被害者の亡D少年に対して、A少年の後、A少年が先に加えたプロレスの荒らわざの為抵抗する力を矢つていたにもかかわらず、重ねて同様のわざを掛けようとしていること及びそれらの結果D少年の死亡という重大な事故が生ずるまで自分のなした行為が如何に残酷で危険性の高いものであるかということに全く気が付かなかつたことに、少年の価値観の偏り、被害者の立場を思いやる暖かい共感性の欠如を窺うことができる。

以上の事情を総合すれば、少年の健全な育成を期するためには、少年を初等少年院に送致して、矯正教育により、共感性の伸長、規範意識及び自律性の涵養をはかるとともに、学業を修得させることが相当である。

よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条二項により、主文のとおり決定する。

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